天蓬と離れ、庭へと賭け出た悟空は、
辺りを見回し一本の桜の木の麓へとやってきた。
まじまじと頭上を見回すと、
そこにお目当ての人物を見つけては大声をだした。
「捲兄ぃみ〜っけ!」
「おやっ?
どっかの美女が声をかけてくれたのかと思えば、なんだ、小僧かぁ〜?」
「小僧じゃないやい!悟空っていう立派な名前があるんだいっ!」
「ああ、そうだった…わりぃ、わりぃ…
そこでその悟空がどうしたんだ?
今日は天蓬んとこであんぱんの本は読まねぇのか?」
「だって、天ちゃんが今日は捲兄ぃと遊んでもらえって言うんだもん!」
「へぇ、お偉いさんは何か忙しい用でもできたってか?」
「…っていうか、銀色の髪の毛の話をしてたら、
急に難しい顔をして部屋に帰っちゃったんだよ…」
「おっ?急に綺麗なお姉ちゃんのことでも思い出したのかぁ〜?」
からかい混じりに軽く交わす捲簾の話に、悟空はいつもと違うしかめっ面をする。
そして、身のこなしも軽く桜の枝によじ登ると、あっという間に
捲簾のいる木の上までやってきた。
おもむろに捲簾の横に腰を下ろすと、今までしていた話の続きをする。
「ん〜〜、っていうか、ぎんし何とかっていう本の話をしてたんだ…
したら天ちゃんがさぁ…急に捲兄に遊んでもらえっていうんだ…!
肉まん5つもくれるっていうしサ…」
「おいおい、じゃあ俺は肉まん5つもらえなきゃ、遊んでももらえなかったのか〜?」
「いやっ、そういう意味じゃなくってさぁ…」
「そういう意味じゃないって、バリバリそういう意味じゃねえかよっ!
…ったく落ち込むよなぁ…
俺は、女子供にはモテるって自信があったのにな…
けど、銀糸なんとかって…多分、銀糸伝説のことだろ?
そんな縁起の悪い話、何で急に出てきたんだ?」
「えんぎ?…の悪い話なの…?」
悟空はぽかんと口を開けながら、不思議そうに捲簾を見上げた。
その顔を横目で見ながら、まるで御伽噺でも言って聞かせるかのような口調で
捲簾はゆっくりと口を開いたのだった。
「むかし、むかし、欲に目がくらんだ、悪〜い神様がおりました。
その神様は天界と地上、地獄の全てを支配しようと、
何でも願いを叶えてくれるという、それはそれは綺麗な女神様の元へ行きました。
しかし女神はその神の悪巧みに気がついて、
願いを聞き入れることを拒みましたとさ……」
「そ、それで…?」
「怒った悪い神様は、女神の目玉をくり抜いて、殺してしまいました…!」
「えっえぇ〜〜〜!!殺しちゃったのっ?!」
「そ…! 物騒な話だろ…?」
「女神様、可哀相じゃんっ!」
「だろ? 美人を殺すなんぞ、男の風上にも置けねえ奴だよなぁ?」
「うん! んで、そのつづきってどうなんの? どうして銀の糸が出てくんの?」
悟空が興味津々で捲簾に聞き返したその時、門の外が何やら騒がしくなっていた。
『闘神太子様のお帰りだ〜!』
その声に一番に反応したのは、他ならぬ捲簾だった。
「おい悟空、闘神太子って言ったら、お前の友達のことじゃねぇのか?」
「え…?もしかしてナタクが帰ってきたの…?」
「もしかしなくても、そぉみてぇだぞ?」
「そっかぁ〜!最近あんまり会ってねぇもんな…
いっつもどっか行っちまってて、部屋の中にも入れてもらえねぇんだ。
なぁなぁ捲にぃ、俺、ナタクに会いたい!!
会いに行こっ!」
悟空は、さっきまでとは全く違った顔をしていた。
頬を桜色に蒸気させ、瞳をキラキラと輝かせている。
嬉しそうに息を弾ませるその姿は、さながら子犬のようであった。
「へぇ、お前、食いモン以外でも、そういう嬉しそうな反応するんだ…」
「…って、捲にぃヒドイなぁ…
ナタクと食いモンを一緒にすんなよっ!」
それはどういう意味なのだろう?
ナタクが食い物より上って言うことか?
いや、悟空に限って、それはないだろう…?
…などと自問自答している捲簾の袖を引っ張り、門の外にいるであろう
ナタクの方へと急ぐ悟空を見て、捲簾は勝手納得しては指を鳴らした。
「そっか、悟空にも春が来たってことかぁ…!
ガキだとばっか思ってたけど、すみに置けねぇなぁ〜!」
何につけても、無邪気な子供の恋心とは、見ていて初々しいものである。
その初恋が如何せん同性であったにしても、相手が美人であることに変わりはない。
ただその身分が、自分とはかけ離れた手の届かない高いところにあるだけの話…
「う〜ん、天界版、ロミオとジュリエットみてぇじゃんっ!
お兄さん、こういう話に弱いんだなぁ〜
もうこなったら、とことん応援しちまお〜!!」
当人たちの知らないところで、一人盛り上がる大人…捲簾であった…。
《 あとがき 》
遅ればせながら第2話をUPでございます〜♪
今回はちょっと物足りない展開ですが、
次回はいよいよ我らがなっちゃん登場〜(^^)
これからバシバシ悟空と絡んでいく予定です(@>。<@)
ストーリーも長くなりそうですので、皆様、見捨てないでついてきて〜( ̄▽ ̄;)